5年10年経ってからこそ

L1000324

「技術なんて捨ててしまえ。」
 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 
5年ほど前、ある若いカメラマンに僕はそう話した。
相談を受けての事だった。
 
僕と彼との関係は、そのときは互いに同じ職種であったが
もともとは僕がカメラマンで彼がフリーの撮影助手だ。
スタジオでみっちり修行をし、一本立ちする前に現場を多く知りたいと願っていた。

彼は売れっ子の助手だった。
人当たりがよく気が利いている。
知識も経験も豊富だ。
 
誰もがその後も順調にやっているに違いないと思っていた。
 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 
僕が「銘機浪漫」を上梓した頃、
お祝いと相談のメールをもらった。
仕事がうまく行っていない事は容易に想像がついた。
 
売れっ子だった助手さんには、
最初にもらう仕事は陳腐に思えただろう。
自分はそんなちっぽけな仕事をする人間じゃないんだぜ、と息巻いたところで、
相手にしてくれる人はいない。
 
そう、彼は、自分が思い描く自分と、現実の自分のギャップに悩んでいたのだ。
 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

答えは簡単だ。
今一度、現場を思い浮かべれば良い。
 
カメラがあって、ファインダーをのぞきシャッターを切る人がいる。
となりにライトを組んだりフィルムをかえたり露出をはかったりと
せわしなく働く人がいる。
 
どちらも撮影業に従事する同職種の人間である。
 
しかし、両者の間は、絶対に埋める事の出来ない深く暗い断崖絶壁がある。
フォトグラファーと助手は、それほどまでに
立っている次元が違うのだ。

彼は、それを混同していた。
技術職である助手の目で、写真を撮っていた。
決して間違いではないが
それが足下をすくう原因だった。
 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 
例えば一輪の可憐な薔薇の花があるとしよう。
 
それをスタジオで一定時間内に撮るのが今回の仕事だ。
 
どうやって撮ろうか。
こんなセットを組んで、ライトはこうだな、
逆サイドから生っぽい光をいれて、表面のテカリを出そう。
カメラはあれをつかって、レンズはコレだな。
 
うん、キレイ!一丁上がり。
 
彼は、培った知識と経験、技術を持って手早く仕事をする。
もちろんコレは僕も同じ。
 
写真の主なところは技術だ。
 
ただ、僕は違う見方もする。

「花」とはなんだろう?
「薔薇」は?
その美しさとは?
咲く事が美?枯れる事も美ではないか?
光を当てる事だけが花を美しく見せる事だろうか?
 
朝の日が昇らない光の中で妖艶な姿を見せる「薔薇」もまた
美しいのではないだろうか?
 
一度、「技術」を捨てるのだ。
 
被写体そのものに思いを寄せる。
「無」になって、見つめる。
 
その視線こそが、フォトグラファーの視線なのだから。
 
僕は、スタジオのホリゾントに向けて下目から数発のストロボをうつ。
白壁を伝わった光は天井を照らし、スタジオ内全体が柔らかく照らされた。
太陽が昇る前、陽の光が空全体に反射して、優しく染み込むような光が世界を覆う、
あの光に少しでも近づけようと。

スタジオで、同じライト機材を使っても
使い方もまるでかわる。
もちろん出来上がる写真は全然違う。
 
決して僕のセレクトが良いという事ではない。
良い悪いではない。
 
モノの見方があって、その先に技術があるという事だ。

周りはそれをちゃんと見抜く。
あの人に頼めば心強いなと、思う。

堂々と、自信を持ってカメラを持ちたまえ。
助手時代に蓄積した技術は
もう体にしっかり染み込んでいるよ。
 
シャッターを押す瞬間に、ちゃんと降りてくる。
ピンチの時にだって、ぴかっと電球がつくように
閃きを与えてくれるさ。

「無心」
それでいいんだ。
 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 

昨日、その彼からメールをもらった。
彼の後輩にも独立のはなむけにこの言葉を贈ったらしい。
 
5年経って、誰かに同じことを言って、
やっと言葉の意味が理解できた(笑)
彼のメールは、そんな感じだった。
  
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 
僕は、教室やワークショップの講師を務めて長いのだけど
たくさんの技術を教えて、本当に深いところまで教えて、
そんなやり過ぎてどうすんの、とバカにされるまでやって
でも、最後には、一度忘れちゃいましょうね、とお声がけする。
 
みんな“きょとん”としている。
勉強しにきて、おかねだして学んだのに
帰りには捨てちゃえなんて(笑)
 
でも、いいのだ。
 
みんながこのまま写真を続けて、
5年10年経った時に、
不意に意味が分かるときがくるだろう。
 

 

 

 

 

 

 

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