目撃者

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90年代半ばから後半にかけての話である。
 
その頃、僕は、若いタレントさんを撮影する機会が多かった。
当時の芸能の流れでは、俳優業に重きを置く方向があり
現在のりにのってTVや舞台で活躍されている方々が
たくさん世に出た頃であった。
 
栗山さんも、宮崎さんも、蒼井さんも、皆10代だった。
 
新しいスターの生まれる場面にも立ち会う事が出来た。
スカウトキャラバンから深田さん、平山さん。
 
華やかさと厳しさと、努力と才能と。
そして、持って生まれた何か。。。
芸能の中で輝く人に、僕はまぶしさを感じ
たくさんの仕事をさせてもらっていた。
 
そんなある日の事。
僕は、舞台「身毒丸」の主役オーディション現場に密着していた。
寺山修司さん作の名作を、世界の蜷川さんが演出をする。
 
オーディションは一般公募だ。
誰でも受けられる。芝居経験がなくても。
 
これから語る彼も、芝居のしの字もしらない少年であった。
サッカーが大得意な埼玉の中学生、友人たちと池袋に遊びに来た時
たまたまオーディションのビラを手渡されたらしい。
 
舞台前の稽古などに使われる大きな会場、
机が並べられ、蜷川さんはじめそうそうたるメンバーが、鋭い視線をむけた。
なんと言っても、ロンドン公演の主役である。
主催側としても、このオーディションでの発掘に命運をかけているのだ。
真剣で、厳しく、でも一緒に頑張る仲間を捜すような、
そういう眼差しで見つめているように思えた。
 
1次、2次と、進んで行くうちに、徐々に精鋭が揃いだす。
頭のいい人、運動神経のいい人、面白い人。。。
芝居の事は僕が言う立場にないのだけど、
感心するほど、皆が上手であった。
 
オーディション最終日。
具体的な芝居の段取りをして、演じる。
台本もあるし、即興的な演出もあった。
共演の名女優・白石さんも加わった熱のこもる現場。
 
演出の蜷川さんからも、本番の稽古さながらの厳しい指導が入った。
 
僕は、ひとり面白い人がいると感じていた。
多くの人は、指示に対して、自分の中で咀嚼して、自分なりに演技をする。
試行錯誤をする。
蜷川さんの指示は何を望み、それにたいして自分はどう答えるか。
オーディションは自分を認めてもらう事でもあるから、
それは至極当然の事であろう。
 
だが、彼はどうも違う。
 
蜷川さんの具体的指示を、そのままやっている。
もっと静かに、◯◯。。。と蜷川さんが台詞を言えば
まったく同じように、静かに、◯◯。。。と出てくる。
こう動いて、と言われれば、そのとおりにすっと動く。
 
考え抜いて、脳から体に指示を出すのではなく。
反射的に。それがすぐ出来てしまう。
なんなんだ、と思った。
 
素直な心がそうさせるのか、
体の運動的な能力がそうさせるのか。
僕は考えていた。
 
ひょっとして、 
天才というのは、こういう人なのか。。。。
 
その後も、審査は続く。
激戦である。
レベルが凄く高い。
 
即興性の高いもので揺さぶったり、
身毒丸そのものを演じさせて最終イメージを見たり。
迫真の演技続きに、会場も張りつめた空気の連続であった。
 
そして、長かった戦いは幕を下ろす。
 
少年は、グランプリをとった。
満場一致、文句のつけようがなかった。
これから皆で磨くすばらしい原石。
新しいスターがこの世に生まれた瞬間だった。
 
数分して、僕は彼に声をかけた。
おめでとうと伝えるとともに、
ガッツポーズなど喜びの写真が欲しかったのだ。
彼は、もらった花束などを後ろにおく。
その時に、そっと涙を拭った。
 
我々から見れば、天才的な感じに見えても
ものすごいプレッシャーと戦い続け、
厳しい要求に応える精神と肉体的な苦痛に
耐えてきたのであろう。
本当にお疲れさまだ。
 
写真に納まった彼は、はにかみながらも満面の笑みだった。
ちょっと照れた控えめなガッツポーズ。
15歳、サッカー少年の顔に戻っていた。
 
・・・・・・・・・・・・
 
しばらくして、高校の入学式の帰りに、
取材をさせてもらった。
ロンドン公演を終え、
彼はもう、スター街道を走り始めていた。

取材撮影時の会話の途中、泣いていたじゃないですかーとなった時
いやいやいやいや、絶対それはないっすよ、と言ったけど、
それは断じて違うんだな。
僕の商売は「見る」ことさ。
目撃する事にかけては、プロなんだ。
 
彼の名前は、藤原竜也さん。
当時15歳。
後に「演劇の申し子」と呼ばれる名優だ。

 

 

 

 

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