「グラスくんの教え」

20歳代の頃の作品。
僕にとって、大事な写真である。

一対のグラスが手元にあった。
発達障害の男の子がこしらえたグラス。
いびつで、気泡がたくさん入って、手作り感がある。
一般的なところで言う美しさとは無縁だ。

だが、何とも言えない愛嬌があって、
手に持つと、手のひらの中で光を放った。

僕は、カメラを手に取り、このグラスに立ち向かった。
しかし、容易ではなかった。
まだ20歳代であった僕は、修行で培った技術を駆使することからスタートしていた。
まずは、スタジオできれいにライティング。

うまくは行かなかった。

所々で厚みも違い、気泡も不揃い、
欠点ばかりが目立つ写真となった。
僕が感じた愛くるしさ、美しさとはほど遠かった。

僕はいつも鞄にグラスを入れて、
場所場所に置き見続けることとした。
日によって、時間によって変わりゆく光の中で見続けた。

あんまり一緒に出かけるので、友達みたいな気分に。
いつしか僕は、グラス君と安易な名を付け
彼にはよりハードなリクエストをするようになっていった。

海まででかけて波にさらわれそうになったり
橋桁から落としされそうになったり
グラス君はさぞ大変だったと思う。

ある時ある場所で。
僕は、ついに見つけた。

あー、いいなぁ。
小さな仏様みたいだ。
見た瞬間に、そう感じた。
きれいだなぁ。

愛くるしいと思った気持ちの奥に
この神々しさがあったのか。
発達障害を持つ男の子の天使のごとき心のありようが
グラス君にちゃんと受け継がれたんだ。
凛として立つ姿が、とても美しく見えた。

僕は大判カメラをセットして、見て感じたそのままを撮った。

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